人事担当者が聞きたい!共育Q&A【第4回】

育休取得者へのハラスメントを予防するために行うべきことは?

男女共に仕事と家庭を両立できる環境づくりを目指して、2021年6月に改正された「育児・介護休業法」。2022年4月から段階的に施行され、10月には「産後パパ育休(出生時育児休業)」や「育児休業の分割取得」などがスタートしました。でも実際「育児・介護休業法ってどんなもの?」「どのように取り入れたらいいの?」と悩んでいる企業も多いはず。

そこで5回にわたって、社会保険労務士の下野ななやさんに、知っておきたい基礎知識やおさえておきたいポイントを質問していきます。4回目となる今回は、部署内で育休を取得する社員が出た際にパタニティハラスメントなどが起こらないよう、上司や同僚が知っておきたいこと、会社としてフォローしておくべきことなどを聞いてみました!

オフィス・プリュス・アン
社会保険労務士 下野ななや氏


社会保険労務士の立場から、「企業における両立支援の取組」を応援する活動を中心に、大学・高校などにおいて「ワークライフバランス推進」のセミナー講師も務める。

Q.上司や同僚からのハラスメントの現状は?

「職場のハラスメントに関する実態調査2021(厚生労働省委託事業)」によると、出産・育児に関するハラスメントの統計では、女性に対してのハラスメントにおいては、上司の場合は男性上司から、同僚の場合は女性からのハラスメントが多いとされています。一方で、育休を希望した男性がパタニティハラスメントを経験している割合は40%以上にのぼり、そのうち60%以上は上司からとされています。

では、なぜハラスメントが起きるのかを考えてみましょう。同僚からのハラスメント場合、社員の中で意識改革ができていないケースがまだまだ多いと感じます。制度ができていても社員の間では周知されておらず、昔のままの意識でいる社員が、自分の時代と比較して批判したり、嫌がらせをしたりするケースが見られます。その背景には、育休を取得することで、休業中に周囲の業務負担が大きくなり、その不満が原因となっていることが多いと思われます。

では、上司からのハラスメントはどうかというと、制度は理解しているものの、「出産・育児は女性が担う役割」という意識が強く、男性の育休取得者への理解が進まない状況が根強く残っていると考えられます。そのため、育休=迷惑というイメージから抜け出せないという課題があります。また、自分の言動がハラスメントにあたるという意識もないケースも多いです。

こうした状況から、育休取得を促進するためには、まず社員に対して会社の方針を徹底して周知し、育休取得者への理解を深める意識改革を進めることが大切になります。また、業務の負担感があることがハラスメントの背景にあることから、育休を取得する側も周りに迷惑をかけることを認識し、業務のスムーズな引き継ぎなどにつながる準備を休業前にしっかりとしておくことが必要だと思います。

Q.管理職に対して必要なサポートや指導は?

管理職は、まずどんな言動がハラスメントにあたるかをしっかりと認識しておく必要があります。管理職世代の中には、昔の感覚で意図せずハラスメントにあたる言動をしていることもあるため、ハラスメントを啓発する管理者研修や、お互い様精神を育む研修など、全社向けの研修とはポイントの違った管理職向け研修を実施するとより効果的です。

たとえば、妊娠中の体調を心配したり、仕事が大変そうだと感じたりした際も、かける言葉を間違えると、相手にとっては嫌がらせや退職勧奨と取られる可能性があったり、男性に対しても「自分の時はこうだった」と自分の経験や意見を伝えると、プレッシャーを与えることになってしまったりと、ハラスメントには思いも寄らない事例があります。管理職側の啓発とともに、会社側もトラブル時にすぐ対応できるフォロー体制を構築しておくことも大切です。

Q.育休取得を促すために行うべきことは?

会社の目標は、制度をうまく運用していくことです。そのために、職種や男女比、年齢層、正規・非正規社員の数、職場の雰囲気など、社内もしくは各部署内の実情に合わせて制度をカスタマイズし、研修などを通じて全社に周知して意識を共有することが重要となります。近年は、育休取得率向上に取り組む企業も増え、成功事例集なども多く出ていますので、他社の事例を参考にしながら自社に合った制度や運用法を探るのも一案です。

また、各部署では業務の棚卸をしたうえで、人員配置や業務配分、仕事内容の見直しを行う機会を持つのもおすすめです。そうして仕事を属人化しない体制をつくることで、育休取得だけでなく、突然の病休や有休、介護休業などを取得する社員が出た時にも、対応が可能になります。常に休業者が出た場合を想定してバックアップシミュレーションをし、さらなる制度活用につながる風土づくりをしておくことをおすすめします。

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